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VOL.4:THIS ONE’S FOR YOU
Bitchがリリックスの中で跋扈しているだけでなく、 私生活でもNIVEAとLAUREN LONDONの二人との間に、ほぼ同時期に子供を設けたあと服役、といった調子で、LIL WAYNEは、まさに“LIFE’S A BITCH”を地でゆく存在だ。そんな彼のレーベル:YOUNG MONEYはこれまで様々なアーティストが契約を交わしたり、あるいはよそに移籍していったりしている。3作目のミックステープ「SO FAR GONE」収録の”BEST I EVER HAD”に急激に人気が集中しているさなかにWAYNEが引き入れたのがDRAKEだった。大ヒットを記録したこの曲は、広く知られているようにこう始まる。
“You know, a lot of girls be thinkin’ my songs are about them/This is not to get confused. This one’s for you”
(自分のことが、僕の曲で取り上げられていると思ってるオンナのコは多いよね。でも、今回だけは勘違いしないで。この曲をキミに捧げる)
使ってる語彙に派手さは全くないものの、出だしから、なんだこりゃ、と唖然とさせられるようなモテ自慢、うぬぼれぶりだ。まず、DRAKEとしては、自分が今までに相当数のオンナのコをとっかえひっかえしてきたこと。そして、今は別れて、つきあっていない、そういったオンナのコたちも、みんな自分の曲を聴いて、先を競ってこれはワタシと彼のことだ、と思っているというのを大前提にしたところから始まっている。でも、”BEST I EVER HAD”とタイトルにもある通り、この曲だけは特定のひとりに向かって歌いかけている、というのだ。でも、キミじゃなくてキミ、キミのことだよ、とアピールすればするほど、かえって、じゃあ、誰のこと?いや、やっぱり、わたしのこと?わたしに決まってる、わたし以外にいない、と、ますますエキサイトさせてしまうという、女心を弄ぶ、トンデモないイントロなのだ。
最初から「勘違いしないで」と思わせぶりたっぷりに始まるこの曲を聴き進めてゆくと、こういうラインも出てくる。
“Sweat pants, hair tied, chilling with no make up on. That’s when your the prettiest I hope that you don’t take it wrong”
(スウェット・パンツに、ひっつめ髪で、すっぴんで和んでる姿。そんなときのキミが一番かわいい。でも、誤解しないでほしい)
さっきは「勘違いしないで」だったが、ここで何故「誤解しないでほしい」なのかといえば、「スウェット・パンツにひっつめ髪で、すっぴんで和んでいるときでさえ一番かわいいのに、そんなキミがさらにお化粧でもした日には……」という、褒め殺しみたいな台詞がここに隠されているというわけだ。よく言うよ、と思われる向きもあるかもしれない。化粧といえば、デビュー・アルバム「THANK ME LATER」からシングル・カットされることになる”FANCY”も、ひたすらオンナのコへの”気配り”に徹している。サビが
“Nail done, hair done, everything did”
(ネイルよし、髪の毛よし、全部バッチリ)”
だし、次のようなのもあるのだ。
“You say you dropping 10 pounds preparing for summer. And you don’t do it for the man, men never motice. You just do it for yourself you’re the fucking coldest”
(夏に備えて10ポンド減量するって君は言うけど、他人のためならそんなの無駄だ、男は気づきやしない。やるならあくまでも君自身のため。君ならやれる、意志が固い人だから)
だから、減量も成功するに決まっていると励ます(持ち上げる)DRAKE。この調子でライムされていては、熱狂的な男性ファンなど生まれるはずもないだろう。それは”BEST I EVER HAD”の次のラインからも明らかだ。野郎は彼の曲を直接、ではなく間接的に聴いている、と言わんばかりだ。
“When my album drop, bitches’ll buy it for the picture. And niggas will buy it too and claim they got it for they sister”
(アルバムが出たら、ギャルはジャケ写目当てに買う。で、野郎も買って言い張るのさ、「カノジョのためにゲットした」って)
今度はイケメン自慢だ。しかも、ビッチはもちろん、野郎も自分のアルバムを買わずには済まされない、とまで言っている。またまた「よく言うよ」と口走ってしまう野郎もいるはずだ。ただし、このラインそのものにはまったく新しさはない。これは、R&Bの楽曲やアルバムのマーケティングの鉄則として長年繰り返し語られてきた文句と変わらない。女性に買わせて、男性にも買わせる、つまり、野郎がカノジョに買ってあげなければいけないような空気を作り上げられる者しか、”売れる”R&Bアーティストにはなれないのだ。この曲を含むミックステープ「SO FAR GONE」、そして、デビュー・アルバム「THANK ME LATER」、どちらのリリース時にも、ラップではなく歌っている曲があるとか、そういう次元とは別のところで、ドレイクの曲ってR&Bなの?それとも、HIP HOPなの?さらに、こんなのでHIP HOPなの?HIP HOPってこんなんでいいの?等という意見が激しく飛び交ったことを思い出すむきもあるだろう。
このDRAKEの場合、女性リスナーにウケがよい、あるいはうなずける点が多いから聴きやすい、と思っている部分が、そのまま野郎が聴いていて気に食わなかったり、”痛いなあ”と思う部分に当たってしまうことが多いように思える。野郎のHIP HOPリスナーが従来通りの感性では受け止められない、そんな内容の楽曲と共に最初に話題を集めたため、男性リスナーからはただちに、例えばLIL WAYNEを受け入れるようには受け入れてもらえなかったのだと思う。だが、もしも(アーティストも含む)男性リスナーに、ある種の反感、あるいは反感をもよおさせるような共感を抱かせることに成功しているなら、DRAKEは到底”ヤワな奴”の一語で括られてしまう存在ではないはずだ。(続く)